The Life Records Of Zeronicle

生きた記録をここに残す。とかっこよくいっていますが、ただの日記です。

満員電車の“肘打ち”にキレた42歳の男が編み出した護身術「リーマン・アーツ」

これは知り合いの池田さんから聞いた話です。

はじめに:満員電車が、僕の道場になった日

毎日、同じ時間に起きて、同じ満員電車に揺られ、同じデスクでパソコンと向き合う。 特別なスキルもなければ、人に誇れるような趣味もない。それが僕、池田智一、42歳、ごく普通のサラリーマンです。

「僕の人生、このまま終わるのかな…」

そんな漠然とした不安と諦めが、胸の中に澱のように溜まっていました。しかし、そんな僕の日常を根底から覆す出来事が、ある朝の満員電車で起こったのです。

これは、何のとりえもなかった僕が、自分だけの「拳法」を編み出し、少しだけ人生の主人公になれた、そんな物語です。もし、あなたも今の自分に何か物足りなさを感じているなら、ほんの少しだけ、僕の話に付き合っていただけませんか?

きっかけは、理不尽な肘打ちだった

その日も、電車は殺人的な混雑でした。ドア付近に押し込められた僕は、身動き一つ取れない状態。そんな中、肘の骨の硬い部分が僕の脇腹の柔らかい部分にぐりぐりと捻じ込まれ、鋭い痛みを感じました。あまりの痛みに僕の表情は歪み、脂汗が浮き出てきます。肘の出所を見ると、僕より少し年配の男性がスマホを見るスペースを確保するために、意図的に肘を入れてきていたのです。

「すみません、ちょっと…」

か細い声で抗議しようとしましたが、男性は僕を睨みつけるだけ。僕は何も言えなくなり、ただ痛みに耐えるしかありませんでした。情けなさ、悔しさ、そして自分の無力さ。電車を降りた後も、心臓はバクバクと鳴り、脇腹の鈍い痛みが僕を責め続けていました。

「強くなりたい」

子供の頃に誰もが一度は思うような、青臭い感情が、40歳を過ぎた僕の心に、熱いマグマのように湧き上がってきたのです。でも、今から空手道場に通う勇気も時間もない。そんな僕がたどり着いた結論は、突拍子もないものでした。

「――そうだ、自分で拳法を作ればいいんだ」

僕だけの「拳法」探しの奇妙な日々

その日から、僕の奇妙な挑戦が始まりました。

まず参考にしたのは、YouTubeの護身術動画や、図書館で借りてきた古武術の本。しかし、どれも専門的すぎて、運動不足のサラリーマンにはハードルが高すぎます。

「もっと、僕の生活に根差した技じゃないと意味がない」

そう考えた僕は、発想を転換しました。僕の戦場は、リングの上ではなく「日常」です。

  • 満員電車で体勢を崩さずに立つための体幹
  • 重い営業カバンを楽に持つための力の使い方
  • 上司の理不尽な叱責を受け流すための精神

日常のあらゆる動作の中に、「武」のヒントが隠されているのではないか。そう気づいた瞬間、世界が違って見え始めました。

夜の公園で、僕は一人、奇妙な動きを繰り返します。カラスの歩き方を真似てみたり、風に揺れる柳の動きを取り入れてみたり。猫が狭い塀の上を歩くバランス感覚。それら全てが、僕の「師」でした。傍から見れば、ただの怪しいおじさんだったでしょう。でも、僕にとっては真剣そのもの。それは、自分自身を取り戻すための、神聖な儀式でした。

編み出した我流拳法「リーマン・アーツ」

試行錯誤の末、僕は自分の拳法に「リーマン・アーツ(Salaryman Arts)」と名付けました。その名の通り、サラリーマンによる、サラリーマンのための武術です。いくつか、その技を紹介させてください。

  • 壱の型「満員電車ディフェンス(不動心)」

    • どんなに押されても体幹をブラさず、他人の圧力を柳のように受け流す防御の型。足腰が鍛えられ、物理的な圧力だけでなく、精神的なプレッシャーにも強くなりました。
  • 弐の型「名刺交換ラッシュ(閃光撃)」

    • 相手の懐に素早く入り込み、正確に名刺を差し出す動きを応用した、連続掌底。もちろん、人に当てるためではありません。この素早い動きの反復練習が、驚くほど肩こりに効いたのです。
  • 参の型「深々たる謝罪(鉄壁ガード)」

    • 頭を下げる「お辞儀」の姿勢は、実は頭部を守る最強の防御姿勢である、という発想から生まれた技。この型を極めてからというもの、上司に怒られている時も「今、僕は鉄壁のガードをしている」と思えるようになり、精神的ダメージが大幅に軽減されました。

笑われるかもしれません。でも、僕にとっては、一つ一つの型が、日々の戦いを乗り越えるための実用的なスキルであり、自信の源となっていったのです。

身体と心に起きた、確かな変化

「リーマン・アーツ」を始めて半年。僕には明らかな変化が訪れました。

まず、身体の変化。毎晩の鍛錬で、体重は5kg落ち、スーツが少し緩くなりました。猫背だった姿勢は改善され、階段を上っても息が切れにくくなったのです。脇腹のぜい肉は、いつの間にか引き締まっていました。

しかし、それ以上に大きかったのは、心の変化です。

自分だけの「型」を持つことで、僕には「軸」ができました。以前は周りの顔色ばかり伺っていましたが、今では「自分は自分」と、どっしり構えていられるのです。理不尽なことがあっても、「これも修行のうち」と受け流せるようになりました。

何より、「自分には何もない」というコンプレックスが消え、「僕にはリーマン・アーツがある」という小さな、しかし確固たる誇りが生まれたのです。

人生は、いつからでも「主人公」になれる

先日、僕は再び満員電車で、肘を入れてくる男性に遭遇しました。以前の僕なら、ただ黙って耐えていたでしょう。

しかし、その日の僕は違いました。

スッと息を吸い、「壱の型・不動心」の要領で体幹に力を込める。そして、相手の肘が当たるポイントをわずかにずらし、圧力を受け流しました。男性は少し驚いた顔をしましたが、それ以上何もしてきませんでした。

僕は、誰かを打ち負かしたわけではありません。ただ、自分の尊厳を、自分の力で守ることができた。その事実が、何よりも嬉しかったのです。

特別な才能がなくても、お金や時間がなくても、何かを始めるのに遅すぎることはありません。日常の中にこそ、自分を変えるヒントは隠されています。

僕にとってそれは、我流の拳法でした。あなたにとっては、それが文章を書くことかもしれないし、料理を極めることかもしれません。

大切なのは、自分だけの「型」を見つけ、それを信じて磨き続けること。

そうすればきっと、昨日よりも少しだけ強い自分に出会えるはずです。人生という物語の主人公は、いつだって、あなた自身なのですから。


池田さんはそう話し終えると、深呼吸をしてさわやかな笑顔を見せてくれました。
その笑顔からは、充実した生活を送れていることがひしひしと伝わってきました。


ここまで読んでくださりありがとうございました!では!

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