
「Cursorで小説、書けるんじゃね?」というエンジニアの病
普段、皆さんはどうやってコードを書いていますか?
最近、開発界隈で話題をかっさらっているAIエディタ「Cursor」。
私も日々の業務や個人開発で使い倒しているのですが……。
ハッキリ言って、こいつの補完機能、優秀すぎませんか?
Tabキーを押すだけで、自分が次に書こうとしていたロジックが魔法のように提案される。
まるで自分の脳内を覗き見られているかのような、あの恐ろしいまでの精度。
そんなCursorの神アシストにどっぷり浸かっていたある日。
私の中の「エンジニア特有の病(=好奇心と圧倒的怠惰)」が疼き始めました。
「これ、プログラム言語じゃなくて……『日本語』の小説執筆にも流用できるのでは?」
もし、Cursorが小説の展開まで先読みして自動生成してくれたら。
自分はTabキーをターンッ!と連打しているだけで、名作が生み出せるのでは?
そんな甘すぎる妄想から、今回の無謀な検証はスタートしました。
本記事は、普段コードと格闘している一人のエンジニアが、最強のAIエディタ「Cursor」に小説を書かせようとして直面した「天国と地獄」。
そして、絶望の果てにたどり着いた「AI執筆の最適解」を赤裸々に綴った検証レポートです。
AIを使った執筆や個人開発に興味がある方は、ぜひ私の「屍(しかばね)」を越えていってください。
題材は「幽霊軍師×女子大生の地方創生ファンタジー」
AIに小説を書かせるにあたって、一番やってはいけないこと。
それは「ありきたりな設定」を投げることです。
テンプレ通りの異世界転生や、よくある展開を書かせても、AIは「どこかで見たことあるような無難な文章」を量産するだけ。
それじゃあ、まったく面白くありませんし、検証になりません。
そこで今回、私がAIの脳みそにぶつける題材として用意したのが、以下の設定です。
【ジャンル】現代ファンタジー
【あらすじ】過去から蘇った「幽霊軍師」と、現代の「女子大生」がタッグを組み、寂れゆく街の「地方創生」を目指す物語
どうでしょうか?
え?『ヒ〇ルの碁のパクリじゃないか』って?
チョットナニイッテイルカワカラナイ――
こほん。
この設定は、私が普段から強く問題意識を持っている「地方の衰退や過疎化」というリアルな社会課題に、
「過去の幽霊」という突飛なファンタジー要素をトッピングしたものです。
パクリナンカジャナイデスヨ
さらに、生きた時代の違う二人の「複雑な価値観のズレと人間関係」を絡ませる。
人間が書いても筆が止まるような、このトリッキーな設定。
果たして、普段コードばかり読まされているCursorは、この「文脈の迷路」をどう解釈し、どんな物語を紡ぎ出すのか?
プロンプトを打ち込みながら、私の期待は最高潮に達していました。
「いける……! これなら、誰も読んだことのない神作が爆誕するぞ!」
……しかし、この時の私はまだ知らなかったのです。
AIに「複雑な文脈」を読ませ続けることが、どれほど恐ろしい事態を引き起こすのかを……。
執筆スピードはマジで「爆速」。……だが、〇〇がヤバすぎた
まずは結論の「良かった部分」からお話ししましょう。
Cursorを使った執筆、スピードに関しては文字通り「爆速」です。
Agentにやってほしいことを書いて、「Enterキー」を押す。
あるいは、続きを書きたい行で「Tab」キーを押す。
それだけで、数秒のうちに何百文字というテキストが、画面上にザーッと錬成されていきます。
ゼロからキーボードを叩く苦労が嘘のように消え去り、「俺は神のペンを手に入れたぞ!」と本気で錯覚するほどの快感でした。
……しかし、その魔法は長くは続きませんでした。
天国から地獄へ突き落とされる、「2つのヤバい現実」に直面したのです。
ヤバい点①:尋常じゃないスピードで溶けていく「トークン」
最初の絶望。それは、トークン消費量のえげつなさです。
プログラミングであれば、必要なファイルや関数だけをCursorに読ませれば済みます。
しかし、小説はそうはいきません。
「幽霊軍師の独特な口調」「女子大生の生い立ち」「これまでの伏線やストーリー展開」……。
物語が進めば進むほど、AIに理解させるべき「過去の文脈(コンテキスト)」が、雪だるま式に膨れ上がっていくのです。
AIに矛盾なく続きを書かせるためには、常に膨大な過去テキストを背負わせる必要があります。
結果、数回のやり取りで、APIのトークン消費量が信じられない数値を叩き出しました。
「えっ、このペースで書いてたらあっという間に今月分のトークン無くなるのでは…。」
ブラウザ画面でトークン消費率がどんどん上がっていく様子を見て、背筋が震えてしまいました。
ヤバい点②:緻密に設定を組んでも、結果が「思い通りにならない」
さらに私を打ちのめしたのが、AIの「言うことを聞かなさ」です。
「地方衰退のリアルな絶望感」や「軍師のシニカルな皮肉」を表現してほしい。
そう願い、マークダウンで何十行にも及ぶ緻密な設定資料を読み込ませました。
しかし、いざ出力された文章を読んでみると……。
キャラクタが崩壊している!
一人称が俺になってたり、私になっていたり…。
「親しい様子で話す」という設定が消え去り、祖母と孫の会話なのにどこか堅苦しい会話になっていたり……。
絶望して慰められて、また次の段落で絶望してたり…。
違う違う、そうじゃない!!
どれだけ細かい条件を付けても、どこかおかしい文章生成されてしまうのです。
ひどい時には、キャラがさっきまでおどおどしてたのに、突然「お前」と二重人格といわんばかりにキャラが変わったりするのです。
「お前、さっきまで読み込ませた設定どこいったんだぃ!?」
深夜のモニターに向かって、何度ツッコミを入れたかわかりません。
AIに「思い通りの文章」を書かせることは、バグだらけのスパゲティコードを解読するよりも、はるかにストレスの溜まる作業だったのです。
じゃあどうすればいい?Cursor小説執筆の「最適解」
トークンはマッハで溶け、キャラクターは崩壊し、ストーリーは思い通りにならない。
「結局AIで小説を書くなんて無理なのか?」
そう挫けかけました。
しかし、ここで終わらない、終わらせないのがエンジニア魂を持つ者の性です。
バグが出たなら、仕様を見直してデバッグするまで。
思い通りにならないのなら、どうすればいいのか試行錯誤するまでなのです。
試行錯誤の末、私は「AI執筆における一つの最適解」にたどり着きました。
この圧倒的な絶望を回避し、Cursorを真に使いこなすためのハックをお伝えします。
丸投げはNG。「書かせる」のではなく「ペアプログラミング」する
最大の失敗原因は、私のマインドセットにありました。
私はCursorを「全自動で小説を書いてくれる魔法の箱」だと思い込んでいたのです。
しかし、Cursorの本来の姿は「超優秀なエディタ」です。
AIにすべてを丸投げするのではなく、人間とAIで「ペアプログラミング」をする。
このパラダイムシフトが絶対に必要でした。
物語の「コア」となる感情の揺れ動きや、どうしようもない人間の泥臭さ。
そこは「ナビゲーター」である人間が責任を持って舵を取る。
そして、その骨組みをもとに、描写を膨らませたり、別の言い回しを提案させたりする作業を、AIという「ドライバー」に任せる。
主導権は絶対に人間が手放してはいけないのです。
トークン節約&精度向上のための「コンテキスト管理術」
では、もう一つの壁である「トークン消費」と「キャラ崩壊」はどう解決するか?
答えは、エンジニアが得意な「ファイルの分割と管理」にありました。
小説の設定を一つの巨大なプロンプトに詰め込むから、AIが混乱し、トークンが爆発するのです。
そこで私は、小説の構成要素をディレクトリごとに分けました。
characters/(幽霊軍師.md、女子大生.md)world/(地方都市の現状.md、ファンタジーのルール.md)plot/(第1章あらすじ.md)
このように設定資料をマークダウンで切り分け、Cursorの「@Files」機能を使って、そのシーンで必要な設定だけをピンポイントに読み込ませるのです。
「今は軍師と女子大生が喧嘩するシーンだから、この2人のキャラ設定と、直前のプロットだけ読んでね」
というように、AIに読ませる文脈を最小限に制限します。
これならトークンの消費を劇的に抑えられます。
さらに、AIに与える情報が絞られるため、「設定を忘れてキャラ崩壊する」というバグも驚くほど減らすことができたのです。
小説執筆におけるAIとの「ストレスフリーな役割分担」
効率と「爆速」だけを追い求め、AIにすべてを任せようとした結果。
待っていたのは、設定の破綻と膨大な修正作業という、かえって遠回りな結末でした。
しかし、その泥臭い試行錯誤の果てに、私は一つの明確な答えにたどり着いたのです。
Cursor(AI)× 人間のベストプラクティス
率直に言います。
私の場合、小説執筆に限って言えば、以下の役割分担が一番ストレスがないという結論に至りました。
- 1. 設定出し:AIと一緒に壁打ちして考える
(アイデアの拡散や、設定の矛盾へのツッコミはAIの得意分野) - 2. 実際の執筆:人間が書く
(感情の機微、泥臭い人間臭さ、物語の熱量は絶対に人間が担保する) - 3. 文法・校正チェック:AIに任せる
(誤字脱字、表記ゆれ、客観的な文章の違和感はAIに指摘してもらう) - 4. 仕上げの修正:人間が行う
(最終的な「読み味」やテンポの調整は、自分の感性で整える)
どうでしょうか?
「AIを使っているのに、結局メインで書いてるのは人間じゃん!」と思われるかもしれません。
効率だけが全てじゃない。心地よい執筆環境を手に入れよう
確かに、AIに全自動で書かせる夢の「爆速執筆」に比べれば、このワークフローは進みが遅いかもしれません。
しかし、メンタル的なストレスは圧倒的に少ないというのが私が出した結論です。
「なんで指示通りに書かないんだ!」とモニターに向かってため息が出ることも、
キャラ崩壊した文章を読んで、虚無感に襲われることもありません。
Cursorは「自動で小説を錬成する魔法の杖」ではありません。
しかし、孤独な執筆作業において、いつでも相談に乗ってくれて、的確な校正をしてくれる
「超優秀なアシスタント兼・編集者」として、これほど心強い存在はありません。
今回の検証は、まさに「ゼロニクルの実験室」という名にふさわしい、失敗と発見の連続でした。
もしあなたも、Cursorという強力な武器を手にしているなら。
AIに「書かせる」のではなく、ぜひAIと「共に創る」楽しさを味わってみてください。