今年一番のしょうげき
この日も朝から寒かった。いつものように歯を磨き、顔を洗ってシャワーを浴びる。このルーティンで眠気を取り除くのだが、電車に座ってしまうとどこからともなく眠気がやってくる。その眠気に逆らうことなく眠りに落ちる。こういうときに逆らってはいけないのだ。もし逆らうと余計なエネルギーを消費してしまう。
電車が駅に到着する度に人が入れ替わる。そのたびに目を開けてしまうのだが、こればかりは仕方ない。
「荷物を強く引いてください!」
どこかの車両で荷物がはみ出ているのだろう。ドアがきちんと閉まらないので電車を出すことができない。
「荷物をぉ!強く引いてください!!!」
駅員さんの声に怒りと苛立ちがこもっているように聞こえた。無理もない。荷物が出ているせいで電車が出せないのだから。このせいでこの電車だけではなく、ほかの路線にも影響が出てしまうかもしれない。
何度目かの呼びかけで、ついに電車が発車した。荷物がなかなか引くことができないのであれば、おとなしく降りてほしいと思いながら、再び電車の中で眠りにつく。人が移動するときに膝に鞄や足が当たる。よくあることだ。こういうことには慣れてしまった。
会社に着くとすでに出社されている社員に声をかけ、仕事の準備を始める。朝飯を食べていなかったので、途中で買ったカフェサンドとコーヒーを口にした。
「ざーっす」
社員Hが出社し挨拶してきたのでそれに応える。何気なくそのHを見ると、赤と黄色が混じった色(以下、金髪)になっていた。
先週までは黒髪坊主だったのに、いきなり金髪になっていた。Hはいい年をしたおっさんだ。髪を染めるなとは言わないが、何がどうなって金髪にしたのかものすごく気になる。全然慣れない。ついつい、二度見、三度見してしまう。状況を把握すると自然と笑いそうになってしまう。
だって全然似合っていないんだもの…。
この突然のHの変身は、今年一番の笑劇であった。